ゴースト血管
ゴースト血管とはどのような血管ですか。
私たち人間の血管のうち、95から99%を占めている毛細血管。毛細血管には、小さな隙間があり、そこから血液が微量ずつ漏れることで、約37兆個あるすべての細胞に栄養や酸素を届ける仕組みになっています。
毛細血管は、太い血管から枝分かれして、体中のあらゆる臓器や器官に張り巡らされています。すべての血管をつなぐと、数万キロメートルほどの長さになると試算されています。
毛細血管自体も、血液が流れ続けることで、みずみずしい状態を保ち健全な状態を維持しています。ところがなんらかの原因で、血管構造が破綻してしまうと、輸送途中に血液成分が漏れ過ぎてしまい、末端まで届かなくなります。その状態が続くと、毛細血管はボロボロになり、最終的には消失してしまいます。人のいない街を「ゴーストタウン」というように血液の流れない血管を、「ゴースト血管」と名づけました。
ゴースト血管になる原因を教えてください。
ゴースト血管が発生する原因の一つは、加齢によるもので、年齢とともに血管も老化することで起こると考えられます。ただし、最近では年齢に関係なく20代、30代でもゴースト血管のある人が増えています。それには、睡眠不足、食生活の乱れなど、生活習慣が大きく影響しています。
傷ついた毛細血管は、睡眠中に修復されます。今は若い世代を中心に睡眠不足の人が多いため、傷ついた血管は十分に修復されず、ゴースト血管につながります。
また、甘いものの過剰摂取や大食いなどの食生活も血管に負担を与えます。過剰な糖を摂取した際に体内で生成される成分が、血管の細胞を傷つけるので、漏れを加速させることがわかっています。
ゴースト血管が関係する病気とは。
影響が大きいと考えられているのは、脳との関係です。脳は非常に多くの血流を必要とする場所で、身体に取り込んだ酸素の2割を消費します。そのため、ゴースト血管で血流が滞ると、認知症患者の脳に「白質病変」があらわれることがわかっています。白質病変とは、脳深部の白質というところで、血の巡りが悪くなっている状態のことです。
骨の丈夫さとも関係しています。骨は日々古い骨が壊され、新しい骨に作り替えられていますが、この作り替えの作業に必要な栄養を骨に運んでいるのが、毛細血管です。骨に栄養がいかなくなると、作り替えられないため骨がもろくなり、骨粗しょう症を招きます。
また、血管が衰えると、血流が滞るため、心臓からでた温かい血液が、皮膚に届く頃には冷えてしまい、それが冷えとなります。冷えは、便秘や肩こり、むくみなどを引き起こします。
それだけでなく、見た目の若さを左右する肌への影響もあります。肌の毛細血管が衰えれば、ターンオーバー(肌の生まれ変わり)がうまくいかず、乾燥やくすみ、吹き出物やごわつきなどの肌トラブルが起こります。頭皮の毛細血管が衰えれば栄養がいかず、髪から水分が失われてパサついたり、抜け毛が増えることにつながります
家庭でできる予防法を教えてください。
毛細血管は消えてゴースト化しやすい半面、血流を通せばすぐに復活させることが可能です。ただし、血管の形がいったん消えてしまうと、新しく作ることは非常に難しいことがわかっています。
まずは、睡眠を十分とり、毛細血管を修復させること。そして、食生活を見直す際は、血管のバリア機能を高める食材を取り入れるようにしてください。たとえば、「シナモン」に含まれる物質は、毛細血管の細胞の接着力を上げ、漏れを防ぐ働きにつながります。お菓子やお茶の香りづけに使われる香辛料ですが、今はパウダーが店頭に並んでいますので、紅茶やコーヒーに入れて飲む習慣をつけてみてください。ほかにもスパイスの一つである、ヒハツや紅茶のルイボスティーにも、シナモン同様の効果があります。
そして、血流をアップさせるために効果的なのが、「スキップ」。ふくらはぎは、第二の心臓と呼ばれているので、ここを鍛えると全身の血流が上がります。
スキップができない場合は、立っているときに、かかとの上げ下げをするだけでも効果があります。 毛細血管をゴースト化させないために、まずはできることから始めてみましょう。
今回お答えいただくのは
高倉 伸幸 先生
大阪大学微生物病研究所教授/医学博士