後鼻漏
後鼻漏(こうびろう)とはどのようなものですか。
鼻の奥に鼻水が引っかかっているような感じがする、鼻水がのどに流れてきて咳が出るなどの症状を多くの人が経験したことがあると思います。その原因はもしかすると後鼻漏かもしれません。後鼻漏は、鼻水が鼻から出ずに、のどに流れ落ちる状態です。鼻の中は常に分泌物でうるおされているため、それがのどに流れてくることは生理的な現象ですが、日常生活に支障が出ている場合、病気として治療が必要になります。
鼻の粘膜にある鼻腺という組織でつくられている鼻水には、鼻から入ってくる空気を適度な温度や湿度に調整したり、空気中の細菌やほこり、有害物質などを鼻粘膜に吸着させて、気管支や肺に入っていかないようにする機能があります。鼻の粘膜の細胞表面には繊毛と呼ばれる細かい毛が生えていて、その繊毛が機械のように鼻の奥へ分泌液を送り込んでいます。通常は規則正しく、のどの方に送られるので、私たちは無意識に唾液とともに飲み込んでいます。
しかし、さまざまな原因で鼻水の量が増加し、粘りが増すと、のどに引っかかるように感じます。また、鼻水が大量に分泌されると、鼻をかんでも鼻水が絶えずのどの方に流れ落ちるようになり、吐き出すか飲み込むしかない状況に陥ります。この段階になると、病院を受診する方も多くなり、後鼻漏を指摘される場合が多いです。
後鼻漏の原因
後鼻漏の原因として考えられる病気は、主に副鼻腔炎(蓄膿症)とアレルギー性鼻炎、上咽頭炎(じょういんとうえん)です。
副鼻腔炎は、副鼻腔に炎症が起こり、膿がたまり、粘膜が腫れます。たまった膿汁が鼻の中にあふれ流れてくるので、必然的に鼻水の量と粘性が増します。アレルギー性鼻炎はハウスダストや花粉などの異物に鼻が反応し、鼻水が大量に流れ出て症状を引き起こします。上咽頭炎は、鼻とのどの間(鼻の奥のつきあたり)である上咽頭が炎症を起こす状態です。上咽頭粘膜からの分泌物が増加するために、症状が起こります。
鼻水がのどへ大量に流れると、のどが炎症を起こし、さらに鼻水が喉頭や気管に入ると咳の原因にもなります。そのため、治療の最初の目標は鼻水を増やしている原因を治療し、量を減らすことになります。後鼻漏は気管支炎や口臭の原因にもなるので、長期的に鼻水に悩まされている場合は、早めに専門医の診断を受けて原因を突き止めましょう。
後鼻漏の診断と治療法
問診では、鼻水がサラサラかネバネバしているか、血が混じっているかなどを確認し、日常生活でどのようなことに困っているかなどを聞き取ります。その後、前鼻鏡検査を行った後、ファイバースコープで鼻の中からのど、のどの奥まで十分に観察します。副鼻腔炎が疑われた場合は、レントゲンやCTで画像診断を行います。
診断結果により治療方法は異なりますが、基本的には薬物療法、局所療法、手術療法の三つの方法があります。薬物療法では、炎症による痛みや腫れをやわらげる消炎作用と、濃厚で粘性のある分泌液やたんを溶かして排出しやすくする作用がある消炎酵素薬や粘液溶解薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬などを使い、マクロライド系の抗生物質を少量、長期にわたって内服することがあります。局所療法では、鼻の中に薬剤を噴霧したり、ネプライザーで薬剤を吸入して炎症を抑えていきます。手術療法は、副鼻腔炎の所見が強い場合に選択します。
後鼻漏は鼻とのどとの関係が深く、両方を治療することが望ましいため、専門医と相談しながら治療を進めるのがベストです。
後鼻漏を改善するための注意点
これから寒くなり気温が低くなると、後鼻漏の症状が悪化する人が多くなります。身体を温めると免疫力が高まるので鼻水も減り、奥にたまった鼻水も出やすくなりますから、まずは身体を冷やさないように注意しましょう。また、乾燥しやすい時期は部屋の保湿を心がけ、水分を適量とることも改善につながります。
自己免疫機能が弱まると重症化しやすいので、バランスのよい食事を心がけ、寝不足にならないよう睡眠をしっかりとり、身体を休める、ストレスを避けるなど、生活習慣全般を見直すことも大切です。
後鼻漏の治療は長くかかる場合もあるので、日常生活を気をつけながら根気よく治療を続けてください。
今回お答えいただくのは
陣内 賢 先生
医療法人社団広士会 新中野耳鼻咽喉科クリニック院長/医学博士
/日本耳鼻咽喉科学会 認定専門医/日本抗加齢医学会専門医