認知症
認知症とはどのようなものですか。
「認知症」とは病名ではなく、何かの病気によっておこる症状や状態の総称です。認知症の定義は、認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態とされています。
認知症の原因となる病気で、最も多いのは「アルツハイマー型認知症」です。これは脳の神経細胞が障害され、脳が委縮します。次に多いのが「血管性認知症」です。脳の血管が詰まる脳梗塞や血管が破れる脳出血などで、周辺の神経細胞がダメージを受けて発症します。手足の麻痺など神経症状が起きることもあります。
また、記憶や感情と関係している大脳皮質などの神経細胞にレビー小体(「αシヌクレイン」というたんぱくを主な成分とする物質)がたまり、神経細胞が死滅する「レビー小体型認知症」もあります。
ほかにも感染症や代謝性の病気などが認知症につながることもあります。気になることがあれば専門の医療機関を受診し、原因を知ることが重要です。
認知症の診断
認知症の診断では、最初に「問診」が行われ、どのような症状があるか、日常生活における支障などを聞き取ります。本人の記憶が抜け落ちている場合は、周囲の人が本人の症状や様子を伝えることができるよう、メモなどを持参するといいでしょう。
その後、認知機能がどの程度なのかを調べるため、医師が口頭で日付や時間、場所など、記憶力を調べるための質問をします。さらに、血液検査や脳脊髄液検査、画像検査なども行われます。
このようなさまざまな検査を総合して、認知症の診断が行われます。病気によっては治療を受けることで治るものもありますが、認知症の大部分を占める病気に関しては根本的な治療はないのが現状です。
認知症の治療
治療は基本的には介護やリハビリを行い、必要な場合は薬を服用することが中心となります。認知症は適切なケアで認知機能の低下を遅らせたり、機能障害があっても本人も家族もできるだけ快適な生活を送れるようにすることができます。
薬物療法は症状や病気により使える薬が限られ、認知症患者は、自分で薬の管理を行うことが難しいため、介護者が服用を促すことが前提です。
リハビリには多くの種類がありますが、何を行うにしても、指導する人とコミュニケーションを取りながら、楽しく行うことが大切です。楽しむことで脳に心地よい刺激をあたえ、残された機能を高めることが期待できます。興味がある場合は各市区町村に問い合わせてください。
認知症の予防
現在、認知症の予防法については、さまざまな研究が行われています。今までの研究のなかで予防効果があるといわれているもののひとつはウォーキングなどの有酸素運動です。1回 30 分程度、週に 3 日以上習慣的に行ってきた人は、認知症の発症率が低いというデータがあります。
食事は、不飽和脂肪酸を多く含む魚類、抗酸化作用をもつビタミンC、ビタミン Eを多く含む野菜や果物、オリーブオイルを使った料理は、認知症予防につながると考えられています。
また、生活習慣病である高血圧や糖尿病、脂質異常症などは、アルツハイマー病などの発症リスクが高まると指摘されているので、これらを予防することも重要になってきます。
多くの場合、ある日突然、認知機能の低下が起こるわけではありません。緩やかに少しずつ低下していきます。このような状態を軽度認知障害といい、この段階で治療を始めることも大切です。
高齢化社会において、認知症はこれからも増加していきます。今は、国全体で認知症の人や家族を支援する制度もあります。不安なことは家族だけで抱え込まず、まずは身近な医師に相談し、悩みの解決を図りましょう。
今回お答えいただくのは
宮武 良輔 先生
駿河台こころのクリニック院長/医学博士/精神保健指定医/日本精神神経学会専門医