人食いバクテリアと手足口病
手足口病と人食いバクテリア感染症。どちらも感染症ですが病名から受ける印象がずいぶん違いますね。今回はニュースで時折見かけるこれらの疾患について解説します。
◆◇手足口病とは1,2)◆◇
手足口病は、手や足、口の中に水疱疹の症状が見られる疾患です。手足の発疹には痛みはありませんが、口の中にできた発疹には痛みがあり、嚥下が困難になることもあります。また、発熱も手足口病ではよく見られる症状です。乳幼児を中心に、夏から秋にかけて流行する疾患で、原因となるのはエンテロウイルスと呼ばれる一群のウイルスで、腸で増殖する特徴があることから腸管ウイルスとも呼ばれます。
エンテロウイルスは感染力が強く、飛沫や糞便を介して感染し、時に大流行を起こすことがあります。エンテロウイルスは60種以上が知られており、手足口病のほかにヘルパンギーナや出血性結膜炎、夏風邪等様々な感染症の原因となります。ウイルスが腸でだけ増殖している場合は症状がほとんどなく、感染に気付かない場合もあります。症状がない場合でも感染により免疫が成立するため、成人での発症は多くありません。
新型コロナが流行していた期間中は手足口病の大流行はありませんでしたが、その後は成人を含め感染者数が急増しており、注意が呼びかけられています。大人は、子どもの頃にエンテロウイルスに感染し、既に免疫を持っているため、通常感染しませんが、ウイルスの型が異なれば大人でも感染し、水泡や発熱といった初期症状に加え、下痢や嘔吐、口内炎など、子どもに比べて重い症状が出やすいとされていますので注意が必要です。
手足口病のウイルスを効率よく退治できる治療法はありません。解熱剤や鎮痛剤といった対症療法が中心となりますので、感染を周囲に広げないためにも、症状が治まるまでは仕事を休み、しっかり休養することが大切です。
◆◇劇症型溶結性連鎖球菌感染症(人食いバクテリア感染症)3,4)◆◇
人食いバクテリア、なんとも物騒な名前ですが、正式には劇症型溶血性連鎖球菌感染症と呼ばれます。名前の通り症状が急激に進行する(劇症型)、連鎖球菌による感染症で、患者の3割程度が亡くなることからこんな物騒な名前が付けられたようです。この感染症の主な原因となるのは、A型連鎖球菌と呼ばれる我々の周囲にありふれた細菌で子供の咽頭炎や皮膚感染の原因にもなる細菌です。人食いバクテリア感染症や咽頭炎の原因となるA型連鎖球菌は同じもので、感染したからといってすべての患者が劇症型になることはなく、症状の出ないケースも多いとされています。
人食いバクテリア感染症は2015年に患者が急増し、いったん減少した後2023年以降再び患者数が増大していますが、この原因はまだ分かっていません。高齢者、皮膚の感染症や外傷、糖尿病などの基礎疾患といった患者側の要因と、海外から新たな株が流入しているといった細菌側の要因が関係しているのではないかと推定されています。
人食いバクテリア感染症はある日突然手足の痛みが発症し、翌日には身体を支えてもらわないと動けないほど症状が急速に進行します。ワクチンはまだなく、抗菌剤の投与や皮膚病変部の切除といった治療が行われますが、治療が追い付かないほど状態が急激に悪化する場合があることが、高い死亡率の原因となっているようです。皮膚や筋肉の壊死により後遺症が残ることもありますので、これまでに経験したことのないつらさや痛みを感じたら、ためらわずに医療機関を受診することが重要です。
◆◇おわりに◆◇
ニュースで様々な感染症の流行が取り上げられると、ついつい過度の心配をしてしまいがちですが、病気のことばかり考えて日々を過ごすのは精神衛生上マイナスです。ワクチンの存在する感染症であれば、ある程度効果的・ピンポイントに予防が可能ですが、それ以外の場合は体調の変化を軽視せず、休養と食事、睡眠、適度な運動といった基本的な生活習慣を大切にすることで基礎体力を維持し、手洗いや体温測定、必要に応じてマスクを着用するといった追加の感染対策が健康の維持につながります。必要な対策を講じたうえで、閉じこもりがちにならない毎日を送りましょう。