睡眠負債~睡眠時間足りてますか?~
by Nobuko Kodaka(湧永製薬 学術・営業薬制部)
必要な睡眠時間が十分に取れていない状態が続くと、ストレスや疲労の影響で生活の質が低下するほか、様々な病気のリスクが高まります。睡眠研究の専門家は、睡眠不足が続く状態を「睡眠負債」と名づけ、対策の必要性を指摘しています。
◆◇睡眠負債
自分では睡眠に問題ないと思っている人でも実は僅かに睡眠が足りておらず、その僅かな睡眠不足が借金のように蓄積することを睡眠負債といいます。社会生活の変化伴い、日本人の睡眠時間は減少を続け、国際的にみても非常に短い傾向にあります。OECD(経済協力開発機構)の統計※(下図)によると、日本人の平均睡眠時間は平均より1時間以上も少ない「7時間22分」でした。特に子どもや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われています。睡眠負債は「行動誘発性睡眠不足症候群」とも呼ばれ、睡眠障害の一種と見なされています。睡眠負債は、2~3日たっぷり眠ったくらいでは解消することはできず、充分に眠る生活を3~4週間ほど続ける必要があります。
睡眠負債かどうかを確認するには・・
睡眠負債が溜まっているかを確認するには、自分の2週間分の睡眠(入眠から翌日の起床まで)を記録し、平日と休日の睡眠時間の差を比べます。休日に平日の睡眠時間よりも2時間以上多く眠るなら、睡眠負債が溜まっている状態です。
◆◇睡眠負債と疾患
睡眠負債により日中の眠気や意欲低下・記憶減退など精神機能の低下が引き起こされ、体内のホルモン分泌や自律神経機能も大きな影響を受けます。
肥満
睡眠負債により食欲を増進させるホルモン「グレリン」が増え、食欲を抑えるホルモン「レプチン」が減ってしまいます。そのため食べ過ぎを招き肥満になりやすくなります。肥満になると、脂肪細胞からアディポサイトカインという物質が色々と分泌され、その多くは生活習慣病を引き起こすことが分かっています。
糖尿病
睡眠負債で血糖をコントロールするインスリンの働きが悪くなり、糖尿病のリスクが高まります。
高血圧
睡眠負債により交感神経が優位な状態が長く続き、血圧が下がりにくくなります。
認知症
脳の老廃物は、脳脊髄液によって押し流されながら脳外へ排出されます。脳脊髄液は起きている時よりも睡眠中の方が流れやすくなっていることが分かってきました。このことから短時間しか眠っていない人は、アミロイドβと呼ばれる老廃物が充分排泄されず、アルツハイマー病などの脳疾患を発症するリスクが高まる可能性があります。
◆◇睡眠負債を抱えないために
適した睡眠時間を取る
睡眠時間は、短くても長くても良くなく、6時間~8時間未満が目安とされていますが、必要な睡眠時間は、年齢や生活形態などで大きく異なります。そのため、日中に眠気や疲労感で困らない程度であれば問題ないとされています。
生体リズムを規則正しく
睡眠時間を早めるだけでは眠くならず寝つきが悪くなるので、眠気を感じてから寝床に入るようにします。 人の体には約24時間周期の生体リズムが備わっており、眠りやすい時間帯が決まっています。このリズムを狂わせないように就寝時間が遅くなっても朝は一定の時間に起きて太陽の光を浴び、生体リズムを調整することが大切です。
快眠のための環境づくり
・深部体温(体の内部の温度)が下がる時に眠くなるので、入浴を就寝時間1時間前ぐらいに済ませ深部体温を上げておくと寝つきが良くなります。
・寝室内は静かで、暗く、温度や湿度が季節に応じて適切に保たれている事が大切です。
・スマートフォン等の強い光は、催眠作用のあるメラトニンを分泌しにくくし、生体リズムをくるわせる可能性があるので、就寝前に見るのは避けましょう。
・日中の適度な運動は、「中途覚醒」を減らし、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつけ、質の良い睡眠に繋がります。
専門家に相談を
睡眠の注意点は世代で異なります。睡眠に問題が生じている場合は、適切な睡眠習慣について助言を受けることで改善の期待ができます。睡眠の悩みがあれば、医師、薬剤師など身近な専門家に相談することが大切です。
参考)
1)健康のための最新科学新・睡眠の教科書 Newton 2019.8
2)睡眠不足と生活習慣病(社会保険出版社)
http://www.shaho-net.co.jp/suimin/02/index/.html
3)健康づくりのための睡眠指針2014(厚生労働省保健局)
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