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腸を元気に

高齢者に多いのは弛緩性便秘

 便秘は大きく分けると2つのタイプがあり、癌などによる腸管の内部、もしくは外部からの腸管への圧迫により便秘になる器質性便秘と、便秘の原因のほとんどといわれる機能性便秘に分かれます。さらに機能性便秘は、大腸の緊張がゆるんで蠕動(ぜんどう)運動が弱くなる「弛緩(しかん)性便秘」、直腸の反射が悪く、便が下に降りてきていても便意が感じにくい「直腸性便秘」、ストレスなどによって大腸の動きが過剰になる「けいれん性便秘」があります。
 高齢者に多いのは、大腸の動きが弱い弛緩性便秘です。以前はコロナ禍のストレスも影響し、いくつもの症状が重なった複合型便秘も多く見られました。便秘は、 60歳を超えたあたりから男女比は一緒になり、 80歳を超えると男性患者のほうが多くなります。

免疫に大きな影響を及ぼす腸内環境

 高齢者が便秘になる原因のひとつが、自律神経の乱れです。自律神経には交感神経と副交感神経があり、アクセルとブレーキの役割を果たしています。交感神経が働くと腸がゆるんで動きが弱くなり、副交感神経に切り替わると腸が収縮し、よく動くようになります。この腸を動かす副交感神経の働きは、男性は 30代、女性は 40代をピークに、加齢とともに低下することがわかっています。
 腸内細菌も関係しています。善玉菌のビフィズス菌は腸の蠕動運動を促す酢酸を作りますが、高齢になるとビフィズス菌自体が減ってしまうため、蠕動運動が弱くなり便秘になります。
 腸内環境は免疫機能にも深く関係しています。高齢者や基礎疾患がある人ほど新型コロナウイルス感染症の重症化リスクは高まりましたが、共通して腸内環境が悪化していたという報告もあります。そのため、コロナ禍では高齢者を含め多くの人が腸内環境を整える「腸活」に注目しました。腸内環境に意識を向けることは、心身の健康のために重要なことなのです。

積極的に摂りたい水溶性食物繊維

 腸内環境を整えるには、食事によって腸を刺激することも大切です。かつて日本人は根菜、乾物、イモ類など食物繊維を多く含む食品をたくさん食べていました。しかし、現代は食事のスタイルが変わり、便のカサを増やすものが減ったため、うまく便が排泄されず腸に溜まりやすくなっています。
 また、高齢になると食事や水分の摂取量が減るため、ますます便秘になりやすくなります。まずは意識的に食物繊維が豊富な食材を取り入れましょう。便秘の人に摂ってほしいのは、「水溶性食物繊維」です。不溶性食物繊維よりも善玉菌のエサになるため、腸内で増殖を促し、便をスムーズに出しやすくしてくれます。水溶性食物繊維を効率よく摂取できるのは海藻・根菜・熟した果物などです。1日のなかでバランスよく食べるようにしてください。

朝一杯の水で腸を目覚めさせる

 腸の蠕動運動を促すには、「朝一杯の水」を飲むのもおすすめ。朝は胃が空っぽな状態なので、水を飲むことで胃が下がり、そのすぐ下を通る大腸が刺激されて、蠕動運動が始まります。さらにその後に朝食を摂れば、腸が本格的に動き出し、便意へつながりやすくなります。飲むのは、常温の水か少し温かい白湯がおすすめ。慢性便秘の方は糖分が含まれていない「炭酸水」も試してみてください。二酸化炭素の気泡が含まれていて腸をより刺激します。
 最近では朝食を食べない人も多いですが、全身の 47兆の細胞には時計遺伝子が入っていて、朝、太陽の光を浴びて、朝食を食べることによって腸が目覚めて動き出します。朝食は腸の動きをよくして健康に保つためにとても重要で、朝食を抜くと排便のベストタイミングを逃してしまうことにもなります。
 排便のベストタイミングは朝、朝食後です。排便リズムが整わない人は、とりあえず朝食後の決まった時間に毎朝トイレに行きましょう。便座に座ることが習慣になれば、自然と便意を促すことになります。

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今回お話を伺ったのは

小林弘幸 さん

日本で初めて便秘外来を開設した便秘のスペシャリスト。自律神経研究の第一人者。

順天堂大学医学部教授

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